断捨離Part1~捨てられない男の冒険~
より豊かな人生を送るには断捨離しかない。男はそう思うと深く頷いた。
見るに耐えない部屋に暮らして数年、覚えたことと言えば床にある貴重品の在り処と、それを踏まずにベットに辿り着く技術くらいだ。
部屋の片付け方を調べたこともあった。本を読んだりネットでも検索したが、片付けた気分は高まるものの部屋は依然としてその姿を平然と保ったままだ。
毎日ゴミを出そうと決めた日もあった。
ーー今月は頑張ろう。
翌日には脆くも崩れ去るその決意の脆弱さは幼児の砂場に聳え立つ城に等しい。
部屋を片付けたい。ただそれだけのために何を戸惑うことがあるのか。不必要なものを捨てればいいではないか。そう思うとあらゆるものが不必要に思えてくる。
だが、あいにくミニマリストにはなれそうもない。あらゆるものを捨てていくのは信義に反する行為だ。何も信じちゃいないが、すべてを捨てるのにはとてつもなく勇気がいるだろう。
ーー必要なものは残す。
これでいいのだ。これまでは不必要なものを必要以上に残していただけだ。必要か、不必要か。ただそれだけ考えればよい。
部屋を見渡すとありとあらゆるものが床に散らばっている。「これは現代アートなのだ」と開き直ったところで足の裏に感じる痛みは現実の肉体に影響している。
ある人はこう囁く。
ゴミは、ゴミとして捨てられた時点でゴミなのです。ですから、あなたの家にあるものはすべてゴミではないのです。ゴミでないものは捨てなくてよいのですよ。
こういう声も聞こえた。
ゴミというのは不必要なもの。必要でないものがたくさんあるあなたの家はゴミ屋敷なのです。ゴミ屋敷と呼ばれたくなければ即刻処分なさい。
まるで天使と悪魔の声であるが、男にはどちらも悪魔の声に聞こえた。
ーー捨てられないなら溜めちまいな!
ーー全部捨てちまいな!
あくまでもこれは他人の声。男はしばし考え込んだが、やがてある決意を固めた。
ーー捨ててやる、この部屋から、不必要なものをひとつ残らず
果たして、男は部屋を片付けることができるのか。
【次回、見えぬ、床】
この物語はフィクションであり実在する人物、団体、事件、その他の固有名詞や現象などとは何の関係もありません。嘘っぱちです。どっか似ていたとしてもそれはたまたま偶然です。他人のそら似です。あ、CMシーンは別よ。大森電器店とヤマツチモデルショ
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